外科治療に際しての機能温存を目的とした脳機能マッピング

脳腫瘍、難治性てんかんに対する外科治療に際しての機能温存を目的とした脳機能マッピング

 脳腫瘍や難治性(薬剤抵抗性)てんかんの治療目的、脳を部分的に切除することがあります。このような治療において問題となるのは、手術後に生じ得る認知機能の低下です。特に、言語や記憶などの認知機能は日常生活、社会生活における役割の大きい重要な機能ですので、なるべく機能を「温存」する必要があります。わたしたちの診療科では、東北大学病院脳外科、てんかん科、リハビリテーション部、放射線診断科と協力し、脳機能の温存を目的とした脳機能マッピングを行っています。
 様々な脳機能にはそれぞれ、主要な役割を果たす脳部位(いわゆる「中枢」)があります。例えば、言語機能において主要な役割を果たすのは左前頭葉下方(ブロカ中枢)、左側頭葉上部後方(ウェルニッケ中枢)などです。記憶機能では、海馬や嗅皮質を含む内側側頭葉が重要です。 もし全ての患者さんで、厳密に同じ脳部位にこれらの「中枢」があれば、その場所をなるべく切除しないように手術をすればよいことになります。しかし「中枢」のある場所には個人差があり、患者さん毎にどの脳部位が重要であるかを決定する必要があります。このような認知その他の機能に重要な脳部位を決定する手続きを「脳機能マッピング」と呼びます。

 脳機能マッピングの方法としては、(1)機能的MRI、(2)術中電気刺激、(3)慢性頭蓋内留置電極を用いた脳電気刺激や頭蓋内脳波、などがあります。

(1)機能的MRIは、患者さんにMRIの撮像装置の中で様々な言語や記憶に関係する課題を行ってもらい、脳局所の血流の変化を観察する方法です。手術を必要としない非侵襲的な方法である点で優れていますが、詳細な脳部位の同定には向いていません。

(2)術中電気刺激は主に脳腫瘍の患者さんで用いられる方法です。
開頭をした後、腫瘍を含む脳組織を切除する前に施行して切除部位を決定します。言語や記憶課題を施行中に脳局所を電気刺激し、課題遂行に影響を与えるかどうかを判定します。刺激した際に認知課題の遂行に障害を認める脳部位は、その認知機能にとって重要な脳部位であると考えられます。

(3)難治性てんかんの手術をする前に、詳細なてんかん焦点の同定や脳機能マッピングを目的に、2週間程度頭蓋内に電極を留置する場合があります。
このようなケースでは、電気刺激や頭蓋内脳波を用いた機能マッピングを行います。全ての患者さんに対して行うことが可能な方法ではありませんが、術中刺激に比して詳細の機能評価が可能である点、機能的MRIに比して詳細な脳部位の決定ができる点が大きなメリットです。