認知症、軽度認知障害

認知症、軽度認知障害


「認知症」は病気の名前ではなく、「脳の病気によって生じた知的機能・精神活動の広汎な障害」を指す状態名です。
「軽度認知障害」は、認知症の前段階・前駆状態に当たります。

 認知症および軽度認知障害の原因となる疾患は多岐にわたるため、原因疾患の適切な診断が治療・対処を考える際の大前提になります。
 認知症を来す神経変性疾患(アルツハイマー病、レビー小体型認知症など)に対する根治療法(症状をなくすこと、進行を止めること)は、現時点のところありません。しかし根治療法のない疾患においても、投薬や環境調整によって症状を和らげたり、症状の悪化の進行を遅くしたりすることが可能です。また正常圧水頭症のように、手術によって症状の改善、進行の抑制が得られる疾患もあります。
 わたしたちの診療科では、「神経心理学」の手法に基づいた症候分析、MRIや脳シンチグラフィなどの画像診断法などを用いて、原因疾患の鑑別や治療法の決定を行っています。
 以下に代表的な認知症の原因疾患について解説します。

アルツハイマー病

 最も頻度の高い認知症の原因疾患です。
 記憶障害が初発症状である場合がほとんどですが、その後にどのような症状がでるのか、どのぐらいの速さで進行するのかは患者さん毎に異なります。 一般に50-60歳代発症の若年性(初老期)アルツハイマー病では進行が早く、記憶障害以外の症状がでやすい傾向があります。一方で80歳以上の発症例では、進行が緩除で、記憶障害以外の症状が軽度であること傾向があります。

レビー小体型認知症/パーキンソン病に伴う認知症

 レビー小体型認知症は2番目に多い認知症の原因疾患です。以下の4つを中核症状とします。
(1)注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動(日によって、もしくは日中の中で調子良し悪しに差がある)
(2)繰り返し出現する構築された具体的な幻視(人や動物などの幻が見える)
(3)認知機能の低下に先行して出現することもあるレム期睡眠行動異常症(悪夢に伴って激しい寝言や体動が出現する)
(4)運動障害(パーキンソニズム)
 様々な精神症状、運動障害などを来すため、アルツハイマー病に比して患者本人、介護者の負担が大きくなりやすい疾患です。アルツハイマー病に比して進行が早い場合が多いので、早期の適切な診断、早期の治療・介護プランの決定が必要です。

 パーキンソン病とレビー小体型認知症は類縁疾患で、両者の症状はとても似ています。
 レビー小体型認知症が認知障害や精神症状を初発症状とするのに対して、パーキンソン病では動作緩慢、歩行障害、バランス障害などの運動症状が先に出現します。パーキンソン病の患者さんはパーキンソン病を持たない人たちにして数倍認知症になりやすいといわれています。近年、パーキンソン病の認知症に対する適切な治療介入の重要性が認識されるようになってきました。

前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)

 脱抑制(社会的に不適切な行動、マナーの喪失)、繰り返し行動、共感や思いやりの喪失、食行動の変化(甘いものを好むようになる、過食)などの性格・行動の変化を主症状とします。初期には記憶障害その他の認知機能低下が目立たないケースもあり、精神疾患と間違われることも少なくありません。
 正確にいうと前頭側頭型認知症は「ひとつの病気」ではなく、いくつかの原因疾患を持つ「症候群」と呼ぶ方が適切です。進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、筋委縮性側索硬化症などの運動障害を主症状とする神経変性疾患も「前頭側頭型認知症症候群」として発症することがあり、早期に鑑別診断を適切に行うことが重要です。

進行性失語症

 失語症とは、「全般的な認知機能は保たれているにもかかわらず、言葉を上手にしゃべったり、言葉を適切に理解したりすることができない状態」を指す用語です。
 進行性失語の初期は全般性の認知障害(認知症)はなく、障害は言語に限られています。病気の進行にともなって言語以外の認知機能(記憶、遂行機能、視知覚など)や運動障害が顕在化します。
 前頭側頭型認知症と同様に、進行性失語症もさまざまな原因疾患をもつ「症候群」です。失語症やその他の症状に対する対処に加えて、原因疾患の鑑別診断が重要です。

正常圧水頭症

 上述の疾患がすべて神経変性疾患(脳内の異常タンパク蓄積などによって神経細胞死が生じる病態)であるのに対して、正常圧水頭症は髄液(脳や脊髄の周囲を満たす透明な液体)循環の障害を主病態とします。
 ごく簡単にいうと「髄液が溜まりすぎるために脳が圧迫される状態」と言えます。正常圧水頭症はくも膜下出血や髄膜炎などの先行疾患続いて起こる「2次性正常圧水頭症」と先行疾患を有さない(明らかでない)「特発性正常圧水頭症」の2つに分類されます。「特発性正常圧水頭症」は高齢者に多く、緩除に進行する歩行障害や認知障害を主訴として、認知障害外来、その他の神経内科外来を受診することが多いです。以下の3つの症状が中核症状です。
(1)歩行障害(すり足で脚を開いて歩き、不安定で転びやすい)
(2)頻尿・失禁
(3)認知障害(考えるのが遅い、注意力低下、やる気がない)