特発性正常圧水頭症(iNPH)

 当講座は特発性正常圧水頭症(iNPH)における髄液シャント術の効果に関する多施設研究(SINPHONI-1、SINPHONI-2、SInPHONI-3)に参加すると共に、iNPHの症候学的・神経画像的特徴の解明、iNPHの鑑別診断を容易にする神経心理テストの開発、髄液シャント術の予後予測マーカーの同定に勤しんできました。

iNPHの症候学的特徴

 iNPHを含め、正常圧水頭症は歩行障害、認知機能障害、排尿障害を3徴とします。
 iNPHにおける認知機能障害の特徴は遂行機能障害が重度であることですが、当講座での検討によりiNPHでは視知覚、視空間認知もアルツハイマー病(AD)以上に障害され、記憶もアルツハイマー病と同等に障害されることが分かりました。また、髄液シャント術により改善が得られやすい認知機能は遂行機能であることが分かりました(Saito et al., 2011)。

図:iNPHとADに認められる認知機能障害の種類と比率




iNPHの神経画像的特徴

 iNPHにおける神経画像所見の特徴はDESH(Disproprotionately enlarged subarachnoid space hydrocephalus)と呼ばれており、脳室拡大に加えてシルビウス裂や脳底槽のくも膜下腔が拡大し、高位円蓋部の脳溝が狭小化していることを意味します。当科での検討により、高位円蓋部の脳溝狭小化があると髄液シャント術による症状の改善が得られやすいことが判明しました(Narita et al., 2016)。

図:iNPHにおける神経画像所見の特徴 A:高位円蓋部の脳溝狭小化 B:シルビウス裂の拡大 C:脳溝の局所的開大




iNPHにおける遂行機能障害を簡便に評価する神経心理テスト

 当講座では外来やベッドサイドで簡便にiNPHの遂行機能障害を評価できる神経心理テスト(Counting-backward test)を開発しました。必要な道具はストップウォッチと記録する筆記用具のみです。20から1まで数字を逆に数えた際に出現するエラーに着目すると、従来の神経心理テスト以上にiNPHとADを鑑別することができます(Kanno et al., 2012)。

表:Counting-backward testと従来の神経心理テストの結果(MMSEとADAS再生の成績で有意差のないiNPH群とAD群での比較)